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官能小説家、深志美由紀ブログ

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アンナさんの話

今日、NHK特集で吉原花魁のお話をやっていてなんとなく思い出した話。


私がバリバリ水商売をしていた二十歳くらいの頃。
神奈川の僻地と言う場末ではありましたが、当時はまだまだバブルの残滓もあり、私はその中でもなかなかに景気の良いお店に勤めておりました。



そのお店はその街でいちばんと名高かったのです。
まだキャバクラという呼び名が一般的でなくて、パブクラブとか呼ばれていた時代です。
他にも安っぽい店はいくらもあったのだけど、そこはお値段は安いけど高級店。
女の子の質はよし、値段よし、店員のサービスもよし、と評判のお店でした。
当時既に斜陽にあった水商売で毎日毎時カウンターに待ち客が並んでいたのだから、人気の度合いが知れます。

で、そのお店に私が入った当時、伝説のナンバーワン、アンナさん、という女性がいました。



アンナさんは凄かった。

彼女がそのお店に在籍した期間は僅か一年。
「私はこのお店で一年ナンバーワンになります」と宣言して入店し、その通り、一年間他の追随を許さぬナンバーワンの座を守り抜いたという。まさに伝説のキャバ嬢なのです。


見た目はどちらかというと地味。
胸あたりまでの黒髪、色白で化粧の薄い整った顔立ち。
接客中に、お酒は一滴も飲みませんでした。


今でこそキャバ嬢というとアゲハ嬢みたいな、自前のドレスに盛り髪!みたいな感じなんですが、当時は全然そんなふうではなくて、パブクラブはスナックとは違ってスーツ的な制服があって、みんな同じ格好をして……て感じだったのね。
水商売だから派手な女の子はたくさんいたんだけど、一番人気があるのは黒髪の美形、みたいな感じでした。

で、そのアンナさんはとにかく凄かった。



前述したとおり、在籍していたのはほぼ一年。
その間、ずっととんでもないナンバーワンの座を守っていました。

水商売というのは通常女の子がドリンクを飲めばポイントがプラスされるものですが、アンナさんはお酒を一滴も飲まなかった。
それでも、接客と喋りだけでナンバーワンの座を守り通したのです。


そのテクニックたるやあなた、素晴らしいのよ。
もちろん枕営業なんかはしない。

そのテクニックの全ては分からないのですが知りうるかぎりの一例を言うと、例えば彼女は当時お店で一番古株の、ユイさん、という女の子とシェアして部屋に住んでいると言っていました。
が、多分当然本当は違ったんだと思う。
でも女の子と家に住んでいる、というだけで実家暮らしよりポイントが高いうえに(実家暮らしの女は敬遠される)、なおかつ家に来たがる男をシャットアウトできたのね。
彼氏問題もクリア。

で、昼間はなんと「社長秘書をしている」と言っていた。

これがふつうのキャバ嬢だったらうそくさいんだけど、彼女に限っては本当にリアルに感じられたのね。
だってそういう容姿で、酒は飲まず、話は上手く、完璧だったのよ!!


男性というのは不思議なもので、その女の子の魅力に心惹かれているのに、水商売オンリーの娘にはなんだか気後れしてしまうものらしいのです。

当時人気がある子って、大体、昼間は親の介護をしてるとか大学の学費を自分で稼いでいるとか、昼間はお堅い職業に就いてるっていう女の子でした。

で、アンナさんは社長秘書。
これが、実に説得力のある人格だったんだな~。

話はうまいし真面目だし、でも色っぽくて可愛くて、お酒は一滴も飲まない。
もちろんお酒飲まなくてもノリはいい。
さらに、一度ついたお客様の顔は絶対に忘れず、話題も忘れず、お客様一人ひとりの誕生日からお給料日まで詳細に把握して、お給料日には必ず甘い営業、お誕生日には必ずブランドもののプレゼント、一日の同伴は3件当たり前、というような恐ろしいホステスだったのだよ!!!


これ、なかなかできることではありませんよ。

毎日毎時、ついたお客様の会話と特徴をメモして、次に指名されたときには必ず名前と前回の話題を思い出せるようにする。
さりげない会話からお客様のお給料日を聞きだして、無理のない日に必ず呼び出す。
自分が貰うばっかりではなく、お客様の誕生日には必ず高級百貨店のラッピングで価値ある感じのプレゼント。
もちろん一回誕生日を聞いたら忘れません。

一日三回の同伴ってどうやるか分かりますか?
一人目はお食事してからお店にご案内。
そのお客様をヘルプの娘に任せながら、二人目とお茶してお店にご案内。
さらに三人目とはお店の前で待ち合わせしてご案内!って感じなんですよ!!

わあ~~~、想像しただけでもたいへんだね!!!!

それでお客さんが満足できる会話をするっていうのが大変なわけですよ。

素晴らしい。



これはごくごく一部のテクなのですが、そんな、想像を絶する接客で一年間ナンバーワンだったアンナさんのことを、私は折に付け思いだしてしまうのです。

人間にできることって限界はないんだなあって。
どんなお仕事でも完璧に、自分が儲かるだけでなく、お客様にも幸福な思いをさせて終わるという、素晴らしい仕事があるんだなあと思うのです。

アンナさん、一年過ぎたら留学するといってお店をやめてしまったけれど、今頃どうしているのでしょうか。
絶対に幸福になっているとは思うのだけど!!!!



彼女はわたしの中で、一生の憧れの女性なのです。

| 週間えむいち | 23:23 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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